文学
 

カラマーゾフの兄弟(上・中・下)
(ドストエフスキー・著)
(原 卓也・訳)

物欲の権化のような父フョードル・カラマーゾフの血を、それぞれ相異なりながらも色濃く引いた三人の兄弟。
放蕩無頼な情熱漢ドミートリィ、冷徹な知性人イワン、経験な修道者で物語の主人公であるアリョーシャ。
そして、フョードルの私生児と噂されるスメルジャコフ。
これらの人物の交錯が作り出す愛憎の地獄図絵の中に、神と人間という根本問題を据え置いた世界文学屈指の名作。
(上巻・カバーより)

三人とも全然性格が違うのに、やっぱりみんなカラマーゾフだ!、思ってしまうから不思議。
そしてまた誰にも似ていない父ちゃんのフョードル。でも三人足すとフョードルになりますよきっと。
そんなカラマーゾフの人たちと、周りの人たちが織り成す人間ドラマ。濃ゆい人間描写が最高に面白い。
ドミートリィとフョードルの確執。長老の死。父子の恋愛模様。盛り沢山。
リーズとアリョーシャのラブコメちっくな展開から、イワンの大審問官へ、そして
ミーチャ(ドミートリィ)の暴走から、怒涛のクライマックスへ―――!!
と思っていたら、最後は消化不良な感じです。
肝心の裁判は単なる物語のおさらいみたいでしたし、片付いていない複線が多すぎる。
私はてっきり○○○○○が犯人ということで落ち着くかと思ってました。


砂の女
(安部 公房)

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。
考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために引きとめておこうとする女。
そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める部落の人々。
ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のなかに人間存在の象徴的姿を追求した書き下ろし長編。
20数カ国語に翻訳された名作。
(カバーより)

ストレス発散に趣味の昆虫採集に出かけたら、変な部落の人たちに捕まって穴ぐら生活を送る破目に。
男の心理描写が面白かったですねぇ。特に最後の最後。
綺麗じゃないけど絵になっている。終わり方も好きだなぁ。
物語が、題辞(というのか何と言うのか知りませんが最初の言葉)に綺麗に収束してると思う。


テレーズ・デスケイルゥ
(モーリヤック・著)
(杉捷夫・著)

ボルドの荒涼たる松林を吹きぬける烈風にそそのかされたように、なぜ、と問われても答えられぬ不思議な情熱に誘われて、テレーズは夫を殺して自由を得ようとするが果たせず、しかも夫には別離の願いも退けられる……。
情念の世界に生き、孤独と虚無の中で枯れはててゆく女テレーズを、独特の精緻な文体で描き、無神の世界に生きる人の心を襲う底知れぬ不安を宗教的視野で描く名作。
(カバーより)

読了。


吉野葛・蘆刈
(谷崎潤一郎)
岩波文庫

終生のテーマである母性思慕の情感が、吉野の風物や伝説と溶けあい、清冽な抒情性をたたえた名作「吉野葛」は、谷崎「第二の出発点」となったもので、美しい女人への父子二代にわたる男の思慕と愛着の物語「蘆刈」とともに谷崎中期の傑作である。
創元社版『吉野葛』『蘆刈』の写真・挿絵を多数収録して興味を添える。(解説=千葉俊二) (カバーより)

たた思うことは、、風景や古典を引いてる部分も綺麗ですけど、女子を語ってる部分は念の濃さが違う。
そう感じるのは自分だけでしょうか。解説で何故其処を中心に語らないのか不思議でならないのです。
”終生のテーマである母性思慕の情感が”と有るとおりその辺のことは語り尽くされているのか、それとも自分の趣味の問題か。
津村さんが知らぬ母への思慕から、紙漉をしてる娘さんの荒れた手に惹かれちゃうところに「吉野葛」が集約されているのです。
「蘆刈」は単純に小説として面白かったですね。
汀州で月見というシチュエーションには物凄く惹かれるものがあります。
そんな素敵な場で、昔の舟の遊女に思いを馳せてるものだから、類友を引き寄せてしまうのです。
男の物語もとても面白かったですが、感動したのは幕の引き方ですね。
思いもよりませんでした。単純に話が面白かったので、もう満足してて無防備だっただけに。素敵。
主人公も私と同じでしばし心無く闇の中サラサラと河音を聞いていたに違いありません。

完熟の柿である”ずくし”の描写に、筆の恐ろしさを知りました。柿は固い方が美味しいです。やわかい柿なんてダメです。騙されるな自分。


春琴抄
(谷崎潤一郎)
新潮文庫

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幼少の頃より4歳年下の盲目の春琴に仕える佐助。体の契りを交わしつつもあくまで主従の態を貫き通し、恨みを買い春琴の顔が傷つけられると、自らの目を潰し盲目の世界に入る。
彼女の方でも醜い顔を佐助に見られたくないし、また佐助のほうも傷ついた春琴を見たくない、ということで佐助、自分の目を針で突いて盲目となる。
目を突くときの描写がそんなリアルじゃなくてもいいだろ! と泣きながら突っ込む。
冷え症な彼女の足を自分の胸で暖めたり、虫歯で暖めて怒られたり。部分を拾うとネタっぽくなるので感想が難しい。
佐助の春琴信仰は凄まじい。元々は春琴の方が求めた主従の形だったが、晩年では佐助の方が拘っている。もはや春琴の意思すら超えて。
佐助との間に子供すら出来てるのに、相手の名前は言えない、(下僕である)佐助との結婚など持っての外だ、と突っぱねる春琴も凄い。
この時点は心の底からそう思っていたであろうから凄い。気高いというのはこういうことだとも思った。それで綺麗ならそりゃ佐助みたいのも出来るって。

(2006/06/28 記)
(2006/07/09 記)


トルストイ民話集
イワンのばか 他八篇

[トルストイ・著]
[中村白葉・訳]

[岩波文庫]
[1996/04/16改版]

ここに収められた「イワンのばかとそのふたりの兄弟」はじめ9編の民話には、愛すべきロシアの大地のにおいがする。
そして民話の素朴な美しさの中に厳しい試練に耐えぬいたトルストイ(1828-1910)の思想の深みがのぞいている。
ロマン・ロランが「芸術以上の芸術」「永遠なるもの」と絶賛し、作者自身全著作中もっとも重きをおいた作品。
(カバーより)

読了。


星の王子さま
(サン=テグジュペリ)
(河野万里子 訳)
新潮文庫

砂漠に飛行機で不時着した「僕」が出会った男の子。それは、小さな小さな自分の星を後にして、いくつもの星をめぐってから七番目の星・地球にたどり着いた王子さまだった・・・・・・。
一度読んだら必ず宝物にしたくなる、この宝石のような物語は、刊行後六十年以上たった今も、世界中でみんなの心をつかんで離さない。もっとも愛らしく毅然とした王子さまを、優しい日本語でよみがえらせた、新訳。
(カバーより)

子供向けの絵本だと思っていたのですが、このように文庫の態で出る小説だったのですね。
内容も平易で解り易いけれども、むしろ大人向けだと感じました。そして結構皮肉っぽい。
ラストもとてもダークだと思ってしまいました。二度目には毒はないんですよね?
そういった含みを持たせつつ、輝く星空に王子さまと花と羊を想像しなければいけないのです。
大人になったしまった私は色んなところで釈然としないモノを感じてしまったのですが、モノを楽しく解釈しようってとこは同感。
同感なので私も王子さまの星の火山に煤が溜まっていないか、バオバブがいっぱい生えていないか心配するのです。
というような真面目な話は置いといて、話の中に出てきた、王様が最高でした。
なんて道理の分かった人物なんだろう。あの人の国民になりたい。あ、そうか、もう彼の治める星々の民の一人なのか。
彼を思うと星の瞬く夜空も今までと違って見えることでしょう。

(2006/07/16 読了)
(2006/07/22 記)


プークが丘の妖精パック
(キプリング)
(金原瑞人・三辺律子 訳)
光文社古典新訳文庫

ダンとユーナの兄妹は、丘の上で遊んでいるうちに偶然、妖精のパックを呼び起こしてしまう。パックは魔法で子供たちの目の前に歴史上の人物を呼び出し、真の物語を語らせる。 伝説の剣、騎士たちの冒険、ローマの百人隊長……。兄妹は知らず知らず古き歴史の深遠に触れるのだった。
(カバーより)

何気ない気持ちで買った本だったのだけど、読み始めたらとても面白く、速いペースで読み終わってしまった。
特に百人隊長の話。「大いなる防壁」「翼のかぶと」の章が特に良かったです。
ラストも完璧です。
ある同属の覇権争いのために少数で異人種からの攻撃を止めることになる。それは己の全てを賭けねば成せぬ任務。
知略を巡らし敵を牽制しつつ戦いの拠点である防壁を守り続けるが、戦いがいよいよ厳しくなろうと言うときに伝えられたのは主君の敗北。主の処刑はまぬがれない。
防壁を守る彼らにそれを悼む余裕はない。むしろそれの知らせがキッカケになり、絶体絶命の窮地に追いやられることになる。
彼らに残されたものは騎士の誇りと城壁守護の任務のみ。
気力のみで戦い抜き時の感覚・戦っている最中の記憶などもはやない。彼らを救ったのは主を打ち破った敵軍の軍隊だった。
共通の敵(異人種の侵攻)を相手に圧倒的少数でその城壁を守りきった彼らの功績は評価され厚遇での帰属を持ちかけられる。
だが彼らはその申し出を跳ね除ける。
『テオドシウスにはなんの恨みもない。だが戦いというものは――』
『戦いというのは恋愛のようなものだ』パルティナックスが後を引き継いで言った。
『相手がよかろうが、一度心を捧げれば、それが最初で最後なのだ。もう一度捧げる価値のあるものなど残らない』

騎士だ!騎士です! もう、これぞっ!ってセリフです。 場面も台詞回しも完璧私の素敵な騎士像そのままです。
私の下手な要約じゃあ伝わらないかもしれませんが、読後しばらく、カッコイイじゃねぇかこのヤロウ的な気持ち、が抑えられませんでした。
語りに色がないだけにダイレクトに伝わってきたかもしれない。
最後の「宝と法」はよくわかりませんでしたが。。
牧歌的な風景の中で無邪気な少年少女に向かい遠く昔を生きた歴史上の人物が語りだす昔々の思い出話。そこに妖精パックを含めたその絵面はいかにも西洋的な微笑ましさでいっぱいで、そのさらさらした空気は気持ち良かったです。
劇的な展開も色めいた話も無いけれど、ふっと軽い話を読みたくなったときには最適の本ではないでしょうか。

(2007/01/18 読了)
(2007/01/20 記)